ナラタケというきのこ
福島隆一(伊勢崎市)


a 1.分類
 菌界,真菌門,担子菌亜門,菌蕈網,マツタケ目,キシメジ科,ナラタケ属ナラタケ。日本産ナラタケ属は、ナラタケモドキ(Armillariella tabescens)、ナラタケ(A.mellea)、ヤチヒロヒダタケ(A.ectypa)の3種が知られているが、現在ナラタケは数種に分けられて分類されている。

2.きのこの特徴と性質
a.きのこが発生する季節。春〜晩秋
b.きのこの形・大きさ・色。
 ナラタケは中型の大きさのきのこであり、カサは5cm〜10cm位の大きさである。淡褐色〜淡黄褐色(ハチミツの色)で中央部に細かい黒灰色の鱗片をつける。カサの周辺部には放射状の条線があり、柄の上部には膜質のツバがある。各種広葉樹(一部針葉樹)の切り株・倒木・立木の根もとなどに多数群生または束生する。

3.ナラタケ菌は樹病菌
 ナラタケは倒木や切り株だけでなく、生きている立木にも菌糸を伸ばし枯らしてしまう樹病菌である。日本では桑園や茶畑、リンゴやナシ等の果樹園等にも侵入し被害を与えていると書かれているが、実験的に接種してみると、書かれているほど強い菌ではない。また培地上で見る限り、恐れられている程じょうぶな菌ではない。しかし、根状菌糸束が野外でどのような生命活動をするかは、別問題である。

4.ナラタケ菌は根状菌糸束を作る
 長年きのこの菌糸を培養し観察を続けていると、きのこを作るときには菌糸束を作り、外敵に対する抵抗力を高めたり、物質の移動をすみやかにしているように思われる。特に土中や落葉の中で生活する菌は、いずれも良く発達した菌糸束を作る。ナラタケ菌も、水中、土中等を移動する時には、見事に発達した根状菌糸束を作る。
 その昔、沢沿いで古くなった杉の倒木下の地面を掘ってみたことがあったが、一面ナラタケの根状菌糸束でうめつくされていた。また、池の中の根状菌糸束を見た時には本当に驚いてしまうばかりであった。池の中の枯れ枝、倒木にびっしりと根状菌糸束が伸びているだけでなく、倒木表面やお互いの枝の間、さらには水面に浮いている木片まで菌糸束でつなぎとめられている様子を見たことがあった。水中の菌糸はどうやって呼吸するのか。「良く見れば恐れ入りました」。菌糸束の一部が水面上に伸び出しており、さながらマングローブ林のガジュマルの気根を思わせるようである。根状菌糸束の太さは様々であるが、細い物では0.3mm位である。太い物では3mm〜4mmもあり、植物の根とどう見ても見分けがつかないようなものも見られる。

5.腐生ランと共生
ナラタケ菌とオニノヤガラとの関係
 オニノヤガラの塊茎はナラタケ菌の感染を受けると、ナラタケの根状菌糸束は塊茎の皮層中に侵入し、皮層組織を破壊するが、塊茎の消化細胞に侵入すると、その菌糸は急速に消化される。このためオニノヤガラの寄生はナラタケ菌であり、ナラタケ菌の寄生はオニノヤガラであると言える。両者はお互いに寄生関係をもち、しかもオニノヤガラのナラタケ菌に対する寄生が重要である。もしオニノヤガラにナラタケ菌が寄生しなければ、オニノヤガラの塊茎は年々退化してゆき、やがて消滅してしまう。

6.ナラタケの方言名
・アシナガ,アマダレゴケ(新潟)
・オニサモダシ(秋田)
・オリミキ(山形)
・オレミキ,カスボタシ(同)
・カックイキノコ(岩手)
・カックイモダセ,カックリモタシ(同)
・クネモダシ(秋田)
・クリキモタシ,タワタケ,コゴリサモタシ,ササコ(神奈川)
・サモダシ(青森)
・サワフタギ,サワモダシ(秋田)
・ジョウケンボウ(栃木・日光)
・ツバモタシ,ナメコ(青森)
・ナメラコ(秋田)
・ナラセンボン(埼玉)
・ナラブサ,ナラモタシ(青森・秋田)
・ボリボリ(北海道)
・ボリメ(岩手)
・ボリメキ(同)
・モトアシ(長野・鳥取・米子)
・ヤヂキノコ(秋田)
・ユタケ(兵庫)

7.ナラタケは世界最大級の生物
 鯨やゾウ等は、地球上で最大級の動物である。また、直径が数m高さ数十mもある樹木も超大型の生物である。これらの大型生物以上に大型の生物として、ナラタケというきのこが浮かび上がってきた。
 図1は、アメリカミシガン州の広葉樹林の土の中をナラタケの根状菌糸束が、縦横にはりめぐされている模式図である。A地点のナラタケ菌糸とB,C,D等の各地点の菌糸の遺伝子を調べた結果、同一の遺伝子であることがわかった。
 図2は、ナラタケのきのこと根状菌糸束は同一のものと考え実線部分であらわす。ナラタケはカサの直径が5cm〜8cm位で、柄の長さが10cm位いの中型のきのこである。しかし、きのこの部分は植物でいえば花に相当する生殖器であり、樹木の本体(根,茎,葉)に相当する栄養体は、菌糸ということになる。
 つまり、15ヘクタールの全ての菌糸が同一の遺伝子を持つ個体と考えると、栄養体の総重量を類推すれば、100tを越える巨大生物ということになるという説明である。

8.ナラタケ菌糸の発光について
 予備実験1でキナラタケの菌糸を試験官で100本培養した。夜、菌糸の観察をした時に、菌糸が光っている様子が良く見られた。


オニノヤガラについて
 関東地方の平地では5月頃花茎を伸ばし高さ60cm〜100cm位になる腐生ラン。花茎の色は黄赤色、黄土白色、黄緑色等の品種が見られるが、いずれも地下部にジャガイモのような塊茎がある。葉は赤茶色の鱗片状で、花茎の節の部分にかっ着する。花茎は一日5cm〜6cmのスピードで伸び、ある程度の高さになると花軸の部分が伸び、下側の花からだんだんと間隔が広がってゆく。多くは5月末〜6月頃開花するが、花は20個〜50個位付き、下側の花から順次開花してゆく。
 花序の下部の包葉は長さ約2cmになる。花は長さ1cm位。ガク片と側花弁は、合着し先の方が少し離れている程度であるため、美しく咲くランの仲間とは異なり地味な花である。北海道から九州、台湾、韓国、沿海州から中国各地に分布し、山野の林床でナラタケ属のきのこと共生する。
 和名は鬼の矢柄という意味である。太く真っすぐな茎を、鬼の使う弓矢の柄にたとえたものである。また花茎があちこちに点々と生えているので、ヌスビトノアシなどとも呼ばれている。
 塊茎を干したものを天麻といい、長寿と強壮の漢方薬として用いられている。最近の研究により、鎮静、頭痛、テンカン、脳血行障害などにも有効な成分が見つかり、脳の漢方薬として天麻の需要が増加している。



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