平野部にみられるキノコ / めずらしいキノコ
グラビア解説


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表紙のキノコ

ヒゴノセイタカイグチ

 Boletellus betula (Schw.) Gilb. (オニイグチ科キクバナイグチ属)
 坂本晴雄氏と共に97年の夏に山梨県内の観察で見つけたキノコで、二人にとって今世紀最大の発見でした。3年にわたる観察の結果、安定して大量に発生することを確認いたしました。
 発見当時、イグチ類を研究されていた高橋春樹氏にヒゴノセイタカイグチと同定していただいた時の感激は昨日のように覚えています。日本でのヒゴノセイタカイグチの発生は極めて少ないようです。大型で鮮やかな目立ちやすいキノコでありながら、その後、他からの発生報告はないようです。標本は千葉県立中央博物館(吹春俊光氏)、埼玉県立自然史博物館(吉田考造氏)に収めてあります。また、84年にヒゴノセイタカイグチを最初に同定なされた本郷次雄先生には高橋春樹氏から標本を、澤田芙美子画伯からは精緻な図をお贈りされたと伺っております。関係者の皆様、ありがとうございました。(横山 元)

平野部にみられるキノコ

1.ウスベニイタチタケ

 Psathyrella bipellis (Quel.) A.H.Smith (ヒトヨタケ科ナヨタケ属)
  1999.4.25 浦和市郊外で撮影
 傘がワインレッドに染まる雨上がりのフレッシュな状態が美しいが、色褪せるのも早い。傘径2〜3センチ、初め鈍円錐形のち中高のちほぼ平らに開く。表面は湿っているとき暗紅褐色、乾けば淡紅褐色となり放射状の小じわがあらわれる。ひだは直生し、やや疎、暗紅褐色より黒褐色となり、縁部は白粉状。柄は4.5〜8センチ×3〜4ミリ、多少屈曲し、中空、表面は絹糸状〜繊維状、上部は白く下方へ紅褐色〜暗紅褐色を帯びる。春〜夏、畑地、庭園、叢林などの地上、切り株上に群生。分布:日本(京都・埼玉)・インド・ヨーロッパ・アフリカ・北アメリカ。(高橋 博)

2. ナヨタケ

 Psathyrella gracilis (Fr.) Quel. (ヒトヨタケ科ナヨタケ属)
 近くの公園にまかれたウッドチップの腐葉土化の過程で発生いたします。春から初冬までお湿りがあると大量に観察できます。幼菌は写真のようにかわいいキノコですが成長とともに黒ずみ魔法使いの老女のような不気味な雰囲気を感じさせられるキノコです。友人が洋書に載っている写真と同じ感じのナヨタケを写したいと日参し撮られた方がおりました。どの図鑑も一枚の写真しか載せていませんのでナヨタケのように七変化するキノコを一枚の写真だけで、特徴を表現するのはむずかしいようです。ふだんのこまめな観察がなにより大切です。最近各地のスライド勉強会でもウッドチップに生えるキノコを発表されるかたが多くなりました。大量にまかれるウッドチップに生態系の破壊を指摘されつつありますが、私は自宅近くの観察場所として重宝しています。(横山 元)

3.ビロードヒトヨタケ

 Coprinus aokii Hongo (ヒトヨタケ科ヒトヨタケ属)
  1999.5.5 浦和市郊外で撮影
 公園のウッドチップ上によく見られるヒトヨタケ属の一種だが、ザラエノヒトヨタケほどは多くない。傘径2〜3cm、幼時は細長い卵形で、のち釣鐘型から平らに開き、ついには縁がそりかえる。表面ははじめ栗褐色、のち淡黄褐色、成熟すれば灰褐色となり、全面に微毛が密生する。肉は極めて薄く、淡褐色。ひだはほぼ離生し、幅1〜1.5mm、密、はじめ白色のち暗灰褐色から黒色となる。柄は4〜10cm×1.5×2mm、白色、中空、表面は微毛が密生する。春〜秋、枯れ草、落ち枝などに単生〜群生。分布・日本(滋賀・埼玉)。(高橋 博)

めずらしいキノコ

1.ナガエノヤグラタケ

 Asterophora parasitica (Bull.:Fr.)Sing.(キシメジ科ヤグラタケ属)
  日時:1998年9月6日
  場所:栃木県塩谷郡藤原町、龍王峡
  林相:アカマツ、ミズナラの混交林
 寄主:ベニタケ属(シロハツ、またはアイバシロハツと推定)
 1998年9月6日、13日、1999年8月21日に本菌を龍王峡遊歩道脇で観察している。当初、腐朽したベニタケ属上に群生した様子から、ヤグラタケを疑ったが、子実体が小さくカサの表面が絹糸状であること、成熟したカサ表面に厚膜胞子を形成しないこと、寄主のベニタケ属を黒くミイラ化させない等の点でことなり、同種とは明らかに異なる種であった。1999年に採集したものは、長瀞の県立自然史博物館に凍結乾燥標本として収蔵されている。
 1999年9月25,26日の広島きのこ同好会・山口なばの会合同採集会のスライド発表会の席で、本郷先生よりナガエノヤグラタケとの同定をいただき、本菌が稀な種であり、ヒダ部で平滑な厚膜胞子を形成する特徴をもつとのご指導をいただいた。この際、本郷先生より、珍しいキノコの良質な写真ということで、是非、日本菌学会の和雑誌に投稿するようにと勧められましたが、何分、細部の観察などを怠っているため、現時点ではとても学会報告などできません。そこで、失礼ではありますが、本会会報に投稿させていただきました。本郷先生ご自身は熊本県で報告された例を知るのみ、とのことでしたが、関東では研究者やアマチュア等により何度かナガエノヤグラタケと思われるきのこが採集されているようです。(柴田 靖)

2.アカイカタケ

 Aseroe rubra La Billardiere (アカカゴタケ科イカタケ属)
  日時:1999年6月20日
  場所:神奈川県横須賀市神武寺
 腕の数は平均19〜20本で、採集したのを鼻で嗅いてみたら、悪臭には違いないが、私は正常な赤ちゃんのウンチに近い臭いと思った。日本では稀で、最初に京都(1935年鞍馬山)で発見され、その後未確認情報も含め、16例(内2〜3例は神奈川県)ほどが確認されている。神奈川県では1991年10月20日の逗子二子山以来の発見と思われる。(湯峯英二)
 編注:保育社の原色日本新菌類図鑑によれば、福岡・大分・愛媛・高知・京都・滋賀・岐阜・愛知・静岡で確認されいることが述べられています。また、1998年に滋賀県で発見されたものは100個体を超えるほどの大群生で、腕部を広げた直径は26pに及んだとも記されています。

3.タマチョレイタケ

 Polyporus tuberaster Pers.:Fr. (タコウキン科タマチョレイタケ属)
 タマチョレイタケは地中に大きな菌核があることで知られていますが、最近、菌核のないものや倒木上に菌核をもたないで発生することが解ってきました。写真のタマチョレイタケはミズナラ林の地上に発生していたものですが、近くの広葉樹の倒木にも似たようなキノコが生えていました。採取して確認すればよかったと今になって残念がっています。昨年、池田和加男氏が発見なされたチョレイマイタケは漢方薬として大いに利用されていますが、このキノコは薬用成分がないのか利用されていないようです。採取した菌核を地中に埋めておくとキノコが発生いたします。またビン栽培も可能でキノコは食用とされています。各地のキノコ図鑑等にはほとんど掲載されておりますので、全国に分布しているのではないかと思います。(横山 元)

4.ホシアンズタケ

 Rhodotus palmatus (Bull.:Fr.) R.Maire (キシメジ科ホシアンズタケ属)
 キシメジ科ホシアンズタケ属。10年ほど前までは北海道にしかないとされていたが、現在では青森県、栃木県など本州でも発生が確認されている。北海道では大部分がオヒョウから発生するというが、日光で観察されるものはハルニレとヤチダモを材としている。現在まで日光ではオヒョウからの発生は確認されていない。
 この写真のものも7月の栃木県日光で、数株はヤチダモから、大部分はハルニレに出ていたものである。これまでの観察によると日光では、6月と10月の2回発生のピークをみる。時期を同じくして、タモギタケが同じニレ科の腐朽材からよく出る。発生のピークはややずれているが、「ホシアンズタケあるところにタモギタケあり」、である。
 多くの図鑑類では、全体が肉色を帯び、傘表面に網目状の皺模様ありと記述されている。しかし、柄にワイン色の液滴を数多く宿していることの記述が漏れているケースも多い。これこそホシアンズタケの大きな特徴のひとつであり、ピンク色の幼菌から白色の老菌に至るまで見られるものである。表面張力がとても大きいのか、ころころと丸いワイン色の液滴は、土砂降りの雨の中でも観察することができる。
 傘表面の網目状の皺は、時に不鮮明なこともあるが、乾燥するとおおむね顕著に現われる。この皺の実態は傘表面を厚く覆うゼラチン質のような物質である。とても水分を吸収しやすく、雨の時などキノコがゼラチン様の分厚い帽子をかぶっているかのようだ。
 数本から、十数本が束生するが、群生することはないので、食用にするため採取するとなると大変だ。「苦い」とか「辛い」と記述されている図鑑が多い。しかし、芳香を持ったゼラチン質の傘には独特の舌触りがあり、苦味はほとんど感じられない。まったく苦味や辛味を持たない固体の方が多いのではないか。「美味い」キノコの部類だろう。
 北海道上川地域などと似通った気象条件、水流を抱えニレ科樹木の生える高地なら、ホシアンズタケの発生する確率はかなり高いのではないかと思っている。長野県、岐阜県などでもきっとどこかでひっそりと、生息しているのではあるまいか。(浅井郁夫)

5.コウボウフデ

 Battarrea japonica (Kawam.) Otani (コウボウフデ科コウボウフデ属)
  日時:1999年10月17
  場所:山口県徳地町堀、山村広場
  林相:アカマツの混じるコナラ林
 半地中性のツボは、地上部が暗灰緑色、地中部は黄色で、5〜12pの灰青色〜灰緑色の木質でしっかりした柄を伸ばす。頭部は柄と同色でやや太まり、先端より綿屑状となり胞子を飛散させる。数本の単生から、数十本が群生することもあり、しばしば飛散した胞子によりきのこの直下は灰緑色に覆われる。
 埼玉県では採集例が1例だけと伺っていますが、山口県では、1,2年ごとに発生が報告されており、私の知る限りでも今回の観察以前に、4カ所、のべ5回の報告を聞いてます。今回を含め、私が、直接観察した発生場所3カ所は、いずれもコナラにアカマツが混じる林の、やや日当たりが悪く湿気にとむ林床のきれいな場所で、他の発生が報告された場所も同様の環境だと聞いています。まだ確認はされていませんが、発生環境の類似性が高いことや、宇都宮大学の演習林では、長年にわたって発生が繰り返されているそうで、菌根菌と思われる性質が観られています。
 和名について、「本当に字が書けるのか」との質問がよくでますが、答えは「イエス」で差し支えないと思います。胞子が球形のためか、紙への付きは悪いですが、A4の紙にひらがな数文字位は楽に書くことができます。(柴田 靖)



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