きのこの瓶詰め保存法
柴田靖(上尾市)


a  私が以前山口なばの会会報「なばNo.8」で紹介したきのこの瓶詰め保存法について、アルコールを使った方法、解説を追加して、埼玉きのこ研究会の料理研究会の席で紹介したところ、好意的に受け入れていただけるとともに、幾つかのご助言を頂きました。そこで、繰り返しにはなりますが、改良点を含め、改めて紹介いたします。

準備するもの
  • ガラスの空瓶(蓋の裏に樹脂が張ってあり、密封できる耐熱瓶。セーフティボタンがある塩辛やジャムの瓶が望ましい。傷の無い清浄なもの。)
  • 鍋(きのこの前処理、瓶詰めの滅菌用。滅菌用には瓶を入れて蓋ができる深さのあるものが望ましい。)
  • 茶漉し(ゴミ、虫の分別用。お茶パックやコーヒーフィルターを使用すると、より小さなゴミや土も漉し分けられる。)
  • 計量秤(台所用重量秤で十分です。)
  • 温度計(学校教材の100℃まで計測できるアルコール棒温度計で十分。失敗や事故を避けるためには、是非準備して欲しい)
  • タオル(加熱した瓶を鍋から取り出したり、蓋を締め込む時に使用。軍手では薄く、直ぐ外せないので、お湯が浸み込んで火傷する場合がある。)
  • きのこ(表面のゴミや土を取り除いたもの。気になれば虫出ししておく。また、サクラシメジ等は煮こぼして苦味抜きをしておく。)
  • 食塩(最初の加熱時にきのこの水分を引き出しやすくする。調理を兼ねて醤油等を使用しても良いが、旨味調味料は使わない方が良い。)
  • お酒(日本酒、焼酎等。アルコール度の表示があるもの。)
  • 香辛料(お好みのスパイス、ハーブ)
間欠滅菌法
1) きのこを鍋に入れ軽く水と塩を振り、蓋をして弱火で焦がさないように加熱する。(生きのこからは水分が出てきますので、水を加えすぎないように。香辛料はこの段階で入れる。塩は入れなくても可。調理をしても可。)
2) 煮立って、きのこに火が通ったら火を止める。
3) 熱いうちに瓶に9分目位まで詰め、軽く蓋を締める。(このときゴミや虫が出てきているので、気になる人は茶漉しなどで取り除く。)
4) 室温まで冷却し、そのまま6〜12時間放置する。
5) 瓶の蓋を乗せている程度に緩めて鍋に入れ、瓶の外8分目位まで水を入れる。
6) 鍋を加熱し、80℃以上で30〜60 分間保持する。(瓶の真ん中まで80℃以上になるように。強沸騰させないこと。)
7) 瓶を取り出し、軽く蓋を締めて、再度 4) から6) を行う。
8) 熱いうちに瓶を取り出し、蓋をしっかり締め込む。
9) 瓶が冷えて、蓋の中央部、またはセーフティボタンが凹むと出来上がり。

低温殺菌法
1) きのこを鍋に入れ軽く水と塩を振り、蓋をして弱火で焦がさないように加熱する。(生きのこからは水分が出てきますので、水を加えすぎないように。最初から3)の工程で、お酒と生きのこを瓶詰めしても可。塩は入れなくても可。)
2) 煮立って、きのこに火が通ったら火を止める。(このときゴミや虫が出てきているので、気になる人は茶漉しなどで取り除く。)
3) きのこと煮汁の重量を計量し、アルコール度が最低5%になるようにお酒を加え、混ぜ合わせた後、瓶に9分目位まで詰める。(理想的なアルコール度は10〜20%。70%までは度数が高いほど殺菌力、制菌力が強くなりますが、引火しやすくなり危険です。香辛料を入れる場合はこの段階で入れて下さい。)
4) 瓶の蓋を乗せている程度に緩めて鍋に入れ、瓶の外8分目位まで水を入れる。
5) 換気をしながら鍋を加熱し、70〜80℃で30〜60分間保持する。(温度が高過ぎるとアルコールの沸騰が起こり、火傷、火災の危険があります。)
6) 熱いうちに瓶を取り出し、蓋をしっかり締め込む。
7) 瓶が冷えて、蓋の中央部、またはセーフティボタンが凹むと出来上がり。

安全に、失敗しないように作るために
・熱湯、アルコールによる火傷、火災には十分御注意ください。
・瓶と蓋、蓋の裏の樹脂に傷が無いことを確認して使用しましょう。
・瓶に入れ過ぎないようにしましょう。固形分は多くても瓶の7〜8分目までとし、煮汁か熱湯で9分目位にしましょう。この時、熱伝導を良くするため、軽くかき回して、瓶の中の気泡を除いておきましょう。
・蓋を締め込んだ時、瓶の中に高さ1p位の空隙が出来るようにしましょう。クッションの役割をする空隙が無いと、蓋が開かなくなります。
・加熱むらを防ぐ為、極端に大きさの違う瓶を一緒に加熱しないようにしましょう。
・加熱処理する鍋の中に、きのこの瓶の他に水を入れた蓋無しの瓶や耐熱性のコップを入れておくと、温度計立てになるとともに、加熱処理後に先に取り出すことで鍋の中の水位が下がり、きのこの瓶が取り出し易くなります。
・固形分が瓶と蓋の間に挟み込まれないようにしましょう。腐敗の原因になります。
・完成した瓶詰めは光の当たらない涼しい場所で保存しましょう。
・瓶詰めにしてしばらくすると、独特の埃臭さが生じてきます。予め用途を考えて、ハーブやスパイスを利用すると良いようです。
・瓶詰め後、瓶の中に白いクズ状の物が生成したり、ゼリー状に固まる事があります。
・今回紹介した瓶詰め法で、毒きのこや腐敗したきのこが食べられるようになる事は (ごく稀な可能性を除いて)ありません。
・瓶詰め後しばらくして、蓋の中央、またはセーフティボタンが膨らむ事があります。このような瓶詰めは腐敗が始まっていますから、絶対に食べないでください。また、蓋の中央、セーフティボタンが凹んだままでも、開封時には漬物臭や異常な酸味が無いことを確認してから、使用しましょう。

瓶詰め保存法の解説
 きのこのガイドブック等に、様々なきのこの保存法が紹介されていますが、実際にやってみるとなかなかうまく行かない事が多い様です。特に瓶詰めにする方法の紹介には、食品業界に関わる者として、「それはまずいだろう!」と言いたくなるような物も少なくありません。そこで私は、時に手痛い失敗をしながらも、加工食品の製造法の知識を応用した、安全、簡便で失敗が無い方法を検討して来ました。先に紹介した2方法は、自分で何度も行い、ほとんど失敗が無い事を確認出来た方法です。同じ業界の方々には当り前の事ではありますが、どのような考え方で瓶詰めに加工しているのかをご説明します。

 最初に、きのこを瓶詰めに加工する場合、一番の問題点は何かを考えてみましょう。きのこに限らず、瓶詰め作りに失敗したことがある人はご存じでしょうが、ほとんどの失敗品の場合、ガスが発生して漬物様の臭いがしています。これは、最初の加熱処理で死滅させ切れなかった菌類の耐熱性胞子(カビ、酵母、細菌類が種族維持のために形成する耐劣悪環境性の胞子。厚膜胞子、芽胞。)が発芽、繁殖したために起こります。この耐熱性胞子は、土壌中や枯れ木等に大量に含まれていて、自然状態で発生したきのこにも大量に付着しています。たとえ、きれいな水できのこをよく洗ったとしても、ひだやしわの間に挟まった耐熱性胞子はとても洗い流せるものではありません。
 したがって、この耐熱性胞子を死滅させる、もしくは発芽、増殖を出来なくする事が、瓶詰め作りの成否を握っているのです。微生物実験では、加熱により耐熱性胞子を死滅させるために、最低120℃で20分程度の処理が必要とされています。実際に市販されているオーソドックスな缶詰、瓶詰、レトルトパウチでは、業務用の圧力釜を用いて、対象品の中心部に、120℃で20分以上に相当する熱量がかかるように、計算された滅菌がなされています。同様の滅菌は、家庭の台所でも圧力釜を使用して行えますが、与熱量の不足による滅菌の失敗や、蒸気の噴出や急激な圧力低下による内容物の噴出等の危険があります。(小宮山勝司氏のいくつかの著書に、適当な圧力釜による瓶詰め製法が紹介されています。)私自身、圧力釜による滅菌法の利便性は承知していますが、上記のような理由でほとんど行っていません。
 今回ご紹介した方法は、特殊な道具を使用せずに、安全、簡便に瓶詰めを作るための方法です。間欠滅菌法は、耐熱性胞子の、発芽した後は耐熱性が無いという性質と、熱刺激をかけた後、ほぼ100%の確率で発芽するという性質を逆手にとった方法です。つまり、最初の加熱で一般菌類を死滅させると共に、耐熱性胞子に熱刺激を与えて室温静置時に発芽を促す。二回目の加熱で発芽した耐熱性胞子を死滅させ、最初の熱刺激で発芽しなかった耐熱性胞子に、再度熱刺激を与えて発芽を促す。三回目の加熱で二回目の熱刺激で発芽した耐熱性胞子を死滅させる。と、云う考え方です。この三回の加熱処理により残存する耐熱性胞子は、確率的に極めてO%に近い値になります。

 私は、寝る前までにきのこの前処理、最初の加熱、瓶詰めを行い、翌朝に二回目の加熱、その目の夕方に三回目の加熱を行う、というスケジュールで、よくこの瓶詰めを作っています。この方法だと、醤油で煮つけたり、味噌のお汁に調理したきのこも瓶詰めにできるので、蓋を開けてそのまま食べることのできる瓶詰めもできます。低温殺菌法は、時間的に余裕が無いときに、一度の加熱操作で瓶詰めを作るために始めた方法です。この方法は日本酒やワインの風味保持、腐敗防止の目的で行われる低温殺菌法(火入れ、パスツリゼーション)を応用した方法です。アルコールは細胞への浸透力と蛋白質を変成させる力が強いので、水分中にある程度以上含まれた条件で加熱すれば、耐熱性胞子の内部にも浸透して、大多数を死滅させることができます。生き残った耐熱性胞子についても、アルコールによる制菌力が働いて、発芽、生育を防止してくれます。さらに完璧を期すなら、最初から少量のお酢か酸味料を加えてpHを5以下にしておくと、より殺菌力、制菌力が強くなります。

 もともと、醸造酒の品質保持の目的で発達した方法なので、マツタケ酒等の香りを楽しむお酒ならば、本来のパスツリゼーション(60度Cで1時間保持)と同じ処理をした方が、香りがよく残ると思います。これらの方法で、きのこの水煮等を作ると、先に書いたように独特の埃臭さが発生して来ます。料理勉強会の際にこの話をしたところ、西野入さんから、おろしあえ等に使うきのこにはピクリングスパイス(ピクルスを漬け込む時に使用するスパイス) を使うと良いと、ご助言いただきました。また、海外のきのこの瓶詰めには、ローレルリーフを一緒に入れた物がありました。瓶詰めを作る時点で、用途やおおよその料理の種類が決まっていれば、それに合わせたハーブ、スパイスを組み合わせることで臭い消しができると思います。

 この瓶詰め法は、きのこだけでなく、野菜、山菜、果実や、それらの果汁や調理品 にも応用が可能です。シチューやカレー等の料理についても間欠滅菌法で瓶詰めにすれば、レトルト食品特有のレトルト臭の無い、じっくり煮込んだようなマイルドな風味を持っ物に仕上がるはずですし、果物や果汁のレトルト処理や煮沸処理により発生するイモ臭を防ぐために、アルコールを含むことを前提にしたシロップ漬けや飲料に調製して低温殺菌法で瓶詰めにしては如何でしょうか。色々な物に応用が出来ると思いますので、皆さんでも工夫してみてください。

 最後に、今回ご紹介した方法は、私自身が実際にきのこの保存を目的に行っている方法ですが、それ以外にも同様の考え方で腐敗菌の増殖を抑える比較的簡便な方法があります。たとえば、土産物屋などで販売している透明パックされたきのこの水煮やきのこご飯の具等は、水や漬け液のpHを下げる(酸性にする)ことで腐敗菌の増殖を抑えています。また、シロップ漬けの様に、糖類や糖アルコールを使用して水分活性を抑えたり、いくつかの手法を組み合わせて腐敗菌の増殖を抑えることも出来ます。もっとも、これらの方法に尽いては、私自身、理論を知っているだけで、実際に試みていませんので、今回は詳しいご紹介はできません。実際に試作を繰り返して、ある程度目処が付くようでしたら、機会をみてご紹介したいと思います。

用語説明
滅菌:生菌、耐熱性胞子等を完全に死滅させること、又はその操作。
殺菌:有害菌を死滅させること、又はその操作。
制菌:菌類の増殖を抑えること、又はその操作。



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