■ 川越地区周辺観察会

 ◎ 開催年月日  2016年6月25日(土)

 ◎ 集合場所   川越水上公園

 ◎ 観察地    川越周辺平地林(赤坂の森公園、下松原地区、川越水上公園周辺)
 
 ◎ 参加者     22名(会員18名、一日会員4名)
 
 ◎ 世話人    大久保彦、藤野英雄、西田誠之 

 ◎ 鑑定人    福島隆一、大久保彦、藤野英雄、近藤義明、富田稔、西田誠之

 ◎ 報告     西田誠之

 ◎ 写真撮影   大久保彦、西田誠之、 富田稔

  

  観察中1(下松原地区)  撮影  西田誠之     観察中2(下松原地区)  撮影  西田誠之
 
スギノタマバリタケの説明 撮影 富田稔      新分類について  撮影 富田稔    


会長講評  撮影 富田稔



(実施までの経緯)

昨年の日本菌学会菌類観察会は、「埼玉フォーレ」として当会が共催することになり、「武蔵丘陵森林公園」を観察場所に選定した。開催日は9月だったが、会として事前に同地を精査しておく必要があった。その為、本会創設以来ほぼ毎年この時期に実施して来た川越周辺での本観察会を中断することになった。幸い「埼玉フォーレ」は、ほぼ企図した通りの結果で終了、無事大役を果たすことが出来た。それにより、今年の当会の定例行事は、会員の総意で、また以前のスケジュールに戻すことになり、本観察会が復活することになった。

今年も年初以来、国際情勢は、何かと不穏続きだった。しかし、国内は、比較的平穏に過ぎ、例年以上に華やかに桜花が咲き散って、晩春を過ぎ、そろそろ初夏のきのこも動き出したか、、と思っていた矢先、4月14日夜半、突如、九州熊本で、大地震が発生した。大規模な余震が連続し、甚大な被害が出た。2011年の東日本大地震に続いての大災害である。以後、その復興もまだ十分に進まない中、、5月には、早くも真夏の気温を記録する日々となり、その高温の日々のまま、梅雨の季節を迎えた。しかし、関東では少雨の日々が続き、たまにまとまった雨が降っても、地表だけ濡れるだけで、地中は乾いたままだった。その為、きのこの発生も大きく遅れていた。  

6月半ばから、大久保氏等と一緒に、何度か、観察地を下見したが、菌影うすく、材上生の固いきのこの残骸しか目に着かず、首を傾げるしかなかった。いつもなら、ベニタケ属の中で真っ先に顔を出してくれるヒビワレシロハツも、あちこち探して、ようやく、幼菌一つという状況だった。テングタケ属、イグチ属等は、一つも見つからなかった。見事なトキイロヒラタケが出ていたのが、せめてもの慰めだった。本観察会の実施日を、例年より、1〜2週遅くしたのだが、それで良かったと感じていた。しかし、いよいよ当日を迎える段になると、今度は、西から、大雨、集中豪雨、土砂災害等の注意報の連続である。まだ、住宅も壊れたままで避難生活を続けている熊本の被災地の度重なる不幸が、繰り返し、報じられていた。実施日前日には、英国の国民投票でEU離脱が決まるというショッキングなニュースが流れた。そして、実施日当日の当地の天気予報は、朝から雨、驟雨、雷雨に厳重注意と言うものであった。

雨具や、長靴、タオル、着替え等、用意万端整え、車に一切合切積み込んで、早朝5時過ぎに、家を出た。予報通り、雨が降っていて、辺りは、もやっとけむっている。目覚めた時は、かなり激しい雨音を聴いたのだが、しかし、思っていたほど、雨脚は強くない。出来るだけ路面の良い道を走って、途中、赤坂の森に立ち寄った。マツオウジ等、いくつか、目に付くきのこを確認した。森は、うす暗くもやっているが、しっとり落ち着いた雰囲気で、爽やかだった。雨も小降りになっている。あちこちにきのこが目に付くという状況ではなかったが、この分なら、何とかなる、と安堵した。早々に切り上げて、集合場所の川越水上公園に向かった。

途中意外なことに、走るにつれて、路面が乾いているのに気が付いた。もはや、雨も殆ど降っていない。まだ、雲は厚く真上を覆っているが、地平近くには、降りていない。遠方には、秩父や、奥武蔵の山々も見えて来た。

 7時前に、公園につき、すぐに管理事務所に出向くと、丁度、二人の所員の方が出勤して来られた。挨拶して、本日の予定を告げ、降雨の場合の避難場所として、プール横のシェルターの下をお借りすることを、再度、お願いした。前日も電話で告げていたのだが、お二人とも、「承知しています」と快く応じてくれ、「この後、雨、どうですかね、、微妙ですね、、」と心配までして下さった。

家を出た時は、始めから、シェルターの下で集合と決めていたのだが、幸い、予報程の悪天ではなさそうだ。少なくとも、集合受付の場所は、駐車場で良いと判断した。

 広い駐車場のいつもの集合位置に駐車し、埼玉きのこ研究会の幟を立てて、受付の準備をして皆さんの到着を待った。用意を終えている間、まだ、ぽつぽつ落ちていた雨は、やがて、すっかり上がった。まだ上空は全面雲が覆っているので、油断は出来ないが、覚悟していた程の悪天とは違うと感じた。(幸運なことに、結局、この日一日これ以後、全く雨は降らなかったのである)

 世話役の大久保彦氏、藤野英雄氏が、程なく、到着。

 集合時間、受付開始は、8時30分だったが、本日の参加者は、遅れるとの連絡があった福島会長を除いて、全員、8時頃迄には揃って到着されていた。また事情で参加できない方からは、その旨、事前連絡を貰っていた。一日会員として参加申し込みをされていた川越ネットの皆さん4名は、あらかじめ、観察現地へ集合して待機しているとのこと。

一応、9時迄待ってから、世話人3名と籾山氏で挨拶し、本日の観察会を開始した。

そして、予定通り、赤坂の森公園周辺、ジョイフル周辺と二つのグループに分かれて、採集地へ向かった。

 

(観察地にて)

私と藤野氏は、先発の皆さんに遅れて、ジョイフル裏手の駐車地に着いた。

待っていてくれた栗原氏、椙田氏、川越ネットの稗島氏等のグループの方々等と一緒に観察を開始した。森は雨に濡れて、しっとりと穏やかで、薄靄が立ち込め、好ましい雰囲気だった。

予定通り、2時間程、観察を行った。日頃、乾いた状態でばかり見ている、材上生の硬質菌が、新鮮な幼菌として生えていた。また発生したばかりの、微小な菌が多く目に付いた。ヌルデタケやキヌハダタケの微細な管孔、ニオイアシナガタケの薬品臭、ニセニクハリタケの芳香等、一つ一つ同行の皆さんと共に確認した。後に福島会長に解説して貰ったボタンタケの仲間(トリコデルマの1種)も、今迄、この場所では見たことがなかった。

それらに長く見入ったりした為、結局、ごく狭い範囲を歩いたのみで終わってしまった。遅れて来られた福島氏が、一人で、森の中で観察中なのが望見された。もうしばらく、観察を続けたかったが、午後の用意をしなければならないので、断念して、車に戻った。

同時に戻られた栗原氏が「何でしょう?」と大きなきのこを持って来られた。幼菌と成菌一緒に群生していたとのこと。大きな成菌は、ヒダがほんのり赤みを帯びてピンク色に染まっている。アンモニア菌のアカヒダワカフサタケのようだ。まだ他にも生えていたが、一部は残して来たとのこと。そんなに大量に出ているのなら、その場所の地中には、犬か.猫か、何か、それくらいの大きさの動物の遺骸が埋まっているのかもしれない。アンモニア菌は、遺体から直接生えるものではないが、動物遺体が分解される過程でアンモニアが発生すると、それを嫌う他の微生物達がそこを離れてしまい、その場所が、一時的に「微生物的空地」となる。その「隙間」へ、好機とばかり、すかさず入り込み、子実体を作り子孫を残して来た菌類達、それをアンモニア菌と通称している。アカヒダワカフサタケもその1種で、森には、昆虫や小動物等の遺体が、絶えず多くあるので、同菌もよく見られるが、これ程大きくなって多数発生しているのは珍しいと感じた。

 

(鑑定状況、確認種について)

再び、朝の集合場所、川越水上公園の駐車場に戻った頃には、雨の心配は全く失せて、暑くもなく過ごしやすい日和となっていた。いつも設定する木陰の草地に、藤野さんが用意してくれたシーツを敷き、分類表を並べる。

22名の参加者全員が戻って来て、昼食の後、少しずつ、採取してきたきのこを置いてゆく。

例年より乏しいのではないかと懸念していたが、天候同様、それも杞憂に終わった。採集数は、多くはなかったが、種数は、少なくはなかった。1個体だけだが、「よくぞ、いてくれた、よくぞ、見つけてくれた」と、その出会いを嬉しく思わずにはいられない菌も幾つか見られた。

私の期待した種や、印象に残った種をあげれば、前記アカヒダワカフサタケや、アオエノモミウラタケ、アイタケ、クロヒメカラカサタケ、オオシロカラカサタケ、サザナミイグチ近縁種、スギノタマバリタケ、サビハチノスタケ、サワフタギタケ等があった。また、傘も柄も管孔も漆黒の小さなイグチがあり一驚したが、福島会長や宮井氏等と確認したところ、柄は細くか細い小型の菌ながら、切断すると赤変する等、特徴は、クロニガイグチのそれであった。綺麗なウコンハツ、よくそれと誤認されるウコンクサハツ、両方とも、提出されていた。また大きながっしりしたアイタケの成菌が一つあり、同じ緑色のR.Heterophyllaも幾つか採集されていた。ベニヒダタケ、ヒイロベニヒダタケも共に出ていた。アワタケの仲間の綺麗な個体があり、「すわや、サザナミ?、、」と疑ったが、後に、本物のサザナミイグチ(近縁種)が1個体提出された。そのヒダや柄の鮮やかな黄色の美しさが、ことさらに際だって感じられて、この希少種に、また出会えたことに感謝した。サビハチノスタケ(Echinocaetheの1種、E.Russiceps)は、当会ではすっかり馴染みの菌になったが、今は、純白の新鮮な傘のまま落枝に着生している個体が多く見られるので、最も見つけやすい時期である。

子嚢菌や冬虫夏草は、いつも近藤会員にお任せになってしまっているが、今回も、馴染みのオサムシタケの他に、シロヒナノチャワンタケの仲間や、コナサナギタケ、ムシカビの1種等、ミクロの世界が、しっかり披露されていた。スギノタマバリタケは、見つけやすいので、私も必ず探すのだが、なかなか見つけられない。しかし、これも、同菌がびっしり着生しているスギの落枝の一束が提出されていた。

 私が新分類の説明をした後、注目種を紹介、続いて、大久保氏、近藤氏等が解説し、最後に福島会長が総括の説明と培養経験からの観察知見を説明された。皆さんから質問も多くあり、予定の終了時間を大巾に超えてしまったが、なお採集種に見入る人が多かった。

終了後、福島、大久保、私の三名で、公園管理事務所に、御礼の挨拶に出向き、謝辞を述べて、会報を届けた。今年は、そのお世話にならずに済んだが、いつも雨天でも実施可能なように配慮して戴くので本当に有難いことである。

川越公園管理事務所の皆様のご厚意に、伏して深謝申し上げ、報告を終了します。

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(解散後、役員のみは、川越市名細市民センターに場所を移して、臨時の役員会を行なった。

今後の予算、経費について、特に、保険、会報の内容、その予算上の対策を主要テーマとして、対応策を協議した。

               確 認 種
 
アマタケ     撮影 富田稔            モリノカレバタケ  撮影 富田稔
 
ナカグロヒメカラカサタケ 撮影 富田稔      オオホウライタケ 撮影 富田稔
 
ダイダイガダイダイガサ  撮影  大久保彦、  シロホウライタケ属の一種  撮影  西田誠之  
ヒメカバイロタケ 撮影 西田誠之          ヒメコナカブリツルタ 撮影  大久保彦

 
ウラベニガサ   撮影 西田誠之          キツネノハナガサ 撮影  大久保彦
 
ニガクリタケ  撮影 西田誠之           ヒイロベニヒダタケ  撮影 富田稔
    
アカヒダワカフサタケ 撮影 大久保彦    ニオイアシナガタケ 撮影 西田誠之 


 
スミゾメヤマイグチ  撮影 大久保彦  アカヒダワカフサタケ 撮影 大久保彦        

    
  チャウロコタケ 撮影  大久保彦  アカヤマドリのフェアリーリング 撮影  大久保彦         

   
     ウラジロウロコタケ? 撮影 西田誠之   フサヒメホウキタケ  撮影  大久保彦 

   
   シロキクラゲ  撮影  大久保彦         サビハチノスタケ 撮影 西田誠之

担子菌門

 (ハラタケ目)スエヒロタケ科  

スエヒロタケ属:スエヒロタケ

ツキヨタケ科

モリノカレバタケ属:モリノカレバタケ

アマタケ

ヤマジノカレバタケ

(旧オチバツエタケ、青木仮称)、

シロホウライタケ属:ヒノキオチバタケ?

タマバリタケ科

ナラタケ属:ナラタケモドキ

ツエタケ属:ブナノモリツエタケ?

 ダイダイガサ属:ダイダイガサ

 タマバリタケ属:スギノタマバリタケ

ラッシタケ科 

 クヌギタケ属:クヌギタケの仲間

ニオイアシナガタケ

ポロテレウム科

 ゲロネマ属:オリーブサカズキタケ

ホウライタケ科

 ホウライタケ属:オオホウライタケ

ヒメオチバタケ?

ガマノホタケ科

 ヒメカバイロタケ属:ヒメカバイロタケ

テングタケ科

 テングタケ属:ヒメコナカブリツルタケ

ヒメコガネツルタケ

テングツルタケ

ツルタケダマシ

アカハテングタケ

 

ウラベニガサ科

ウラベニガサ属:ウラベニガサ

ベニヒダタケ

ヒイロベニヒダタケ

ハラタケ科

 オオシロカラカサタケ属:オオシロカラカサタケ

 キヌカラカサタケ属:キツネノハナガサ

キツネノカラカサ属:クロヒメカラカサタケ

 ノウタケ属:ノウタケ

ホコリタケ属:ホコリタケ

ナヨタケ科

 キララタケ属:イヌセンボンタケ

コキララタケ

 ナヨタケ属:イタチタケ

モエギタケ科

 ニガクリタケ属:ニガクリタケ

 スギタケ属:ヤケアトツムタケ

アセタケ科

 チャヒラタケ属:チャヒラタケ

ヒメノガステル科

 ワカフサタケ属:アカヒダワカフサタケ

イッポンシメジ科

 イッポンシメジ属:アオエノモミウラタケ

キイボカサタケ

カンゾウタケ科

 ヌルデタケ属:ヌルデタケ

(ハラタケ目―所属科未確定種)

 チャツムタケ属:コツブチャツムタケ、

                            (以上ハラタケ目―39種)

 

(イグチ目)

イグチ(ヤマドリタケ)科

アワタケ属:アワタケの仲間2

 イグチ(ヤマドリタケ)属:ヤマドリタケモドキ

サザナミイグチ

イロガワリ

 ニガイグチ属:クロニガイグチ?

ヤマイグチ属:アカヤマドリ

       スミゾメヤマイグチ

イチョウタケ科

 サケバタケ属:サケバタケ

                (以上イグチ目―9種)


(ベニタケ目)

ベニタケ科

ベニタケ属:ケショウハツ

アイタケ

ウコンハツ

ヒビワレシロハツ

ウコンクサハツ R.Heterophylla、他数種

チチタケ属:チチタケ

ヒロハチチタケ

マツカサタケ科

 ミミナミハタケ属:イタチナミハタケ、

 フサヒメホウキタケ属:フサヒメホウキタケ

ウロコタケ科

 キウロコタケ属:キウロコタケ

チャウロコタケ

(以上ベニタケ目―12種、他数種)

    (キカイガラタケ目)

キカイガラタケ科 

マツオウジ属:マツオウジ
            (以上キカイガラタケ目―1種)

         (タマチョレイタケ目)

マクカワタケ科

 カミカワタケ属:カミカワタケ?

シワタケ科

ハナウロコタケ属:ハナウロコタケ

ヤケイロタケ属:ヤケイロタケ

タマチョレイタケ科

タマチョレイタケ属:アミスギタケ

キアシグロタケ

アナタケ

ウチワタケ属:ウチワタケ

ツヤウチワタケ

 ヒトクチタケ属:ヒトクチタケ

 シュタケ属:ヒイロタケ

シロアミタケ属:アラゲカワラタケ

クジラタケ

カワラタケ

カイガラタケ属:カイガラタケ

 チャミダレアミタケ属:エゴノキタケ

チャカイガラタケ

 ホウネンタケ属:ホウネンタケ

マンネンタケ属:マンネンタケ

オオミノコフキタケ、

サビハチノスタケ属:サビハチノスタケ(Echinochaete russiceps

ツガサルノコシカケ科

  オオオシロイタケ属:アオゾメタケ

ホウロクタケ属:ホウロクタケ

(タマチョレイタケ目―所属科未確定種)

ミダレアミタケ属:ニクウスバタケ

ミダレアミタケ

(以上タマチョレイタケ目―24

 

(タバコウロコタケ目)

タバコウロコタケ科

キコブタケ属:ネンドタケ

ネンドタケモドキ

(タバコウロタケ目―所属科未確定種)

オツネンタケ属:ニッケイタケ

シハイタケ属:シハイタケ

ハカワラタケ、

   (以上タバコウロコタケ目―5種)

 

(キクラゲ目)

キクラゲ科

 キクラゲ属:キクラゲ

アラゲキクラゲ

ヒメキクラゲ科

 ヒメキクラゲ属:タマキクラゲ

(シロキクラゲ目)

シロキクラゲ科

シロキクラゲ属:シロキクラゲ、

(アカキクラゲ目)

アカキクラゲ科

ツノマタタケ属:ツノマタタケ

二カワフノリタケ属:ツノフノリタケ

(以上キクラゲ類―6

 

フィオケルジケプス科

ティラク子嚢菌門

(ボタンタケ目)

リディオプシス属:オサムシタケ

ボタンタケ科

ボタンタケ属:オオボタンタケ

ノムシタケ科

 イサリア属:コナサナギタケ

*(アナモルフ菌類)

ボーベリア属:ムシカビの1

(チャワンタケ目)チャワンタケ科

シロヒナノチャワンタケ(Luchnum)属:

               シロヒナノチャワンタケ

(以上子嚢菌―5種) 

      (合計101種、他数種)



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